薬剤師対談 Vol.1

島先生・松野先生

これからの薬局・薬剤師はどうなるのだろう?

「在宅医療への参画」や「かかりつけ薬剤師」など、これからの薬剤師には様々な役割が求められています。これからの薬局・薬剤師はどうなっていくのか?どのような姿が求められているのか?長年、薬剤師として活躍されてきた方々のトークから、そのカタチを考えます。

薬剤師として「もっと出来ること」は、何があるのでしょうか?

島先生
松野

「調剤」「服薬指導」「疑義照会」はどの薬局、薬剤師でも当然やっていること。でも、今はその「質」が問われているように思う。その部分を高めていく必要があるんじゃないかな。

島先生

学べば学ぶほど「やれていない事」が増えていくように感じます。知識や経験が増えてくると「薬剤師として出来ること・やれること」がどんどん出てくる。
ただ、意識するだけではダメで、スキルも伴わないといけないんですけど・・・。でも、世界が開けていく感じがするんですよね。

島先生
松野

各店舗でレセコンを使っているけど、機能が上がると薬剤師がやることは無くなってしまうかな?

島先生

ソフトウェアの機能が強化されれば、疾患名や薬剤名、傷病名や処方日数をチェックしてくれるようになると思います。
いつかは電子薬歴や電子お薬手帳だけで、対応することも可能かもしれないですね。

島先生
松野

ただ副作用は難しいよね。単にデータベース上だけだと、引っ掛かり過ぎてしまう可能性もあるし・・・。

島先生

あと、患者さんの症状を単語化したり、認識するのが大変かもしれませんね。痛みのレベルも人それぞれですから。だから、機械ではなく人でしか見つけられないものがあるのだと思います。

島先生
松野

添付文書には副作用や併用禁忌が書かれているけど、それを見逃すわけにはいかないよね。患者さんと話をしたり、姿や様子を見たり、歩き方を見たりすることで、副作用の発現を認識できることもあるし。

島先生

加えて、新しい副作用の発見も薬剤師でなければできない事だと思います。薬の作用機序から考えられる副作用もあるかもしれないし、ごく稀に添付文書に載っていないものもあったりしますから。

あと、少し見方が違いますが、環境計量や水質検査、キノコの毒性判断も薬剤師ができることですよね。例えば「子どもがクレヨンを食べてしまったのだけど、大丈夫?」と質問されたら、対処方法も伝えることが出来ます。
大学で応用化学を学んでいるわけだから、「健康」や「薬」だけではない部分もカバーすることが出来はずです。そうやって視野や知識を広げることで、今の時代に求められる「まちの科学者」になれるのではないでしょうか?

島先生
松野

キーワードが出ましたね(笑)。確かに昔に比べて、薬剤師の出来ることは広がりました。患者さんと接してみたり、話したりしてすることで気が付いて、より良い薬物治療につなげていく。
これは今もやっているけれど、これからもやっていくこと。たとえPCが発達したとしても、人のようには出来ない部分じゃないかな。

島先生

そのためにも、「患者さんに近づくこと」が重要ですね。
調剤室の中にいるのではなくて、まずはカウンターに、そしてその外に行って、患者さんと接すること。患者さんが薬局に入ってきた時点で、観察は始まっています。「足をひきずっている」、「いつもより歩幅が狭い」などいつもと違うことに気が付くことが大事です。

これからの薬剤師や薬局の未来はどうなるでしょうか?

島先生
松野

国民皆保険制度があれば、薬剤師や薬局が無くなることは無いと思いますが、そのカタチは変わっていくでしょうね。
薬があれば処方せんや薬局は存在して、調剤はしつづけていくとは思いますが、それ以外の部分はどんどん変わっていくと思います。

島先生

今ある薬局のカタチに、色々と新しい機能が増えていくと思います。個人的には「物販」が加わってくれると良いかなと。
なぜなら在宅訪問に行くと、色々なモノを患者さんから頼まれるんです。患者さんたちにとっては、モノ自体ではなく「薬剤師が選んできてくれたモノ」ということが大切なんです。「薬剤師の見立てたもの=良いもの」と思ってもらえて、「あなたに買って来てほしい」と言われるんですよ。でもこれは「在宅だから」ではなく、薬局のカウンターでもできることだと思います。

島先生
松野

かつて口の渇きを訴える患者さんがいて、OTCを試したことがあったんだけど、あまり評判が良くないことがありました。OTC商品も様々だから、色々な物を扱っていかないとですね。副作用対策グッズを扱ったり、商品知識の向上のためにいろいろ試してみてもいいかもしれません。

島先生

ヒルドイドローションを使っている患者さんに、乾燥肌が始まる前にスキンケアの商品を勧める、というのもありかもしれないですね。
「カサカサしてないですか?」「爪がかゆくないですか?」と伺って、先々を見越していく。今までは「薬を処方してもらってね」と言っていたことを、「こういう商品があるから、使ってみてはどうですか?」と言えるといいんじゃないかな。

島先生
松野

抗がん剤の副作用で、手足症候群がありますが、そういう時にテーピングの上手な巻き方を知っているといいんですよね。
他にも「この素材はこう使えますよ」とか「どのような品質のものを選ぶべきか?」を患者さんに伝えられると良いですよね。
抗がん剤の副作用も、様々なモノを使うことで軽減することができますから。

島先生

薬剤師としては、モノを売るだけでなく「情報も売る」ことが大切です。そうすれば、私たちが患者さんにお勧めするものを購入してもらえますし、世間の流行っているモノを揃えなくてもよくなります。
「物を売る」ことには遠いかもしれませんが、患者さんとの信頼関係を丁寧に創っていくことが、一番良い方法ではないかと思います。

「薬局」という機能の中で、お二人はどんな価値を提供していきたいですか?

島先生
松野

患者さんのために、現状を維持するために出来ることを提供すること、ですね。より過ごしやすい毎日を過ごしてもらえるように、薬剤師としてサポートしていきたいと思います。

島先生

私は「患者さんにより悔いのない選択を出来る手助けすること」ですね。答えをこちらから出すのではなく、患者さんが選ぶことが大切です。
日本の医療はその部分を無視して進んできましたが、個々で踏みとどまって、自分で考えてもらうきっかけを作っていきたいんです。

島先生
松野

患者さんは結構「医師の言う通りにします」ということが多いんです。だから、患者さん自身も変わっていく必要があると思うんだけど。

島先生

時には薬剤師が、患者さんが変わる手助けをする必要があると思います。変わりたいと思っても変われないし、話を聞くことで何を考えているのかを知るきっかけになるかもしれないですから。

患者さんとの関係性はどのように変わっていくでしょうか?

島先生

「患者さんとどれだけ信頼関係を構築できるか?」が薬剤師一人ひとりに問われるようになると思います。
ただ、そのような関係性を作るには時間がかかります。在宅では週に1回はお会いしますが、カウンターの場合は90日で1回来局、という方もいますから、そのような中で関係性を構築していかないといけません。

島先生
松野

けれど1度丁寧な対応しただけで、その後ずっと来局してくれる患者さんもいます。家からは遠いけど必ずここに持ってくる、という方も。そういう人たちをこれからも大事にしないといけないですよね。

島先生

人に対して真剣になることに、今は「ダサい」と思う風潮があるように思います。けれど、人に対して汗をかくことが何よりも大切。
経験が浅いうちは難しいかもしれませんが、これからの医療を担う薬剤師の人たちにも伝えていきたいと思います。

島先生
松野

こちらが丁寧にすれば、患者さんは必ず応えてくれますよね。

島先生

あと、ホスピタリティの本で読んだことは、期待以上のことを返すこと、どこか1点でも満足させることが大事なんだそうです。
驚きと喜びを感じてもらえる、そういったサービスを薬局も提供しないといけませんね。その積み重ねがとても大事じゃないかと。

島先生
松野

愚直に、自分の仕事をきちんとやる。今も昔も大切なことは変わらないですね。